どうもどうも。アナログです。こんにちは。
本日も「New Age of Death Metal」と題して2010年代を振り返り「リバイバルムーブメント」を再考する。さらに、次の10年に向けて期待のバンドもピックアップしようというコーナーです。

 
さて、もう3月も上旬が過ぎ去ろうかという時期。新譜もどんどん出ているので、そろそろこのコーナーを終わりにしないとですね。なので駆け足でまとめに入ろうかと思います。今回はOSDMの話ではなく音楽性の変化についての話です。まずは「デススラッシュ/ブラッケンドデス」で印象に残った3バンドをピックアップしてみました。「10年代の音楽性の変化」についてはこのコーナーのテーマの一つだったと思います。

 

13.「変身をするたびにパワーがはるかに増す・・・その意味がわかるな?」

自分の中ではデススラッシュ/ブラッケンドデスの系譜と言ったらまずドイツが思い浮かぶかな。日本でもお馴染みのDestruction, Sodom, Kreator をルーツとしてDesaster, Nocturnal, Hellish Crossfire, Cruel Force, ドイツ以外にもAura Noir, Nifelheim, Deströyer 666など数多くのバンドが80、90、00年と世代をまたがりイーヴィルな世界観を築きあげてきました。しかし、10年代中盤になると若手有望株バンドの一部に変化が…… 
ということで、僕が選んだ10年代デススラッシュ/ブラッケンドデスはこの3バンド。

左から Ketzer, Tribulation, Chapel of Disease
「あいたたた~」と思った方もいるでしょうが、僕の脳髄にはこの3バンドが刻み込まれてしまったのだから仕方ないのです。え~まずは、Tribulationからです。

 

1.Tribulation

 

09年 1st「The Horror」★オススメ
13年 2nd「The Formulas of Death」

スウェーデン出身のデススラッシュ。00年代初頭に正当派スラッシュHazardとして活動し、04年にバンド名をTribulationに改名し音楽性もホラーを題材としたデススラッシュへと変更。09年1stアルバム「The Horror」をリリース。ジャーマンスラッシュの影響下にあるイーヴィル性とHM-2スウェデスの暴虐性を取り入れたハイブリットデススラッシュ。まだ、さざなみ程度のOSDMリバイバル期に現れた若手として注目されました。しかし、次作「The Formulas of Death」で早くも方向性に変化が現れるのです。暴虐性より抒情性を重要視し、それに合わせたメロディアスな曲展開がファンの評価を二分しました。けれど、どちらかというと多くの人に受け入れられ新たなファンも獲得したのではないでしょうか。

 
 

 
15年 3rd「The Children of the Night」
18年 4th「Down Below」★オススメ

Century Mediaへ移籍してからの2作品。
聴けば聴くほど良くなるけど、当時の感想は「カッコイイけど何かイラつくな~」みたいな複雑な感じだったかな。簡単に言うならブラッケンドゴシック。2ndアルバム時にはその片鱗が垣間見えていたけど、ここまで思い切るとは想像できませんでした。実際どれくらい売れたのかはわかりませんが、他のバンドが方向性を変えた時「Tribulation化」したと言えば大体の音楽性が想像できる程に影響力を持つようになったと思う。サブジャンル化したと言ってもいいかな。
それにしてもTribulationの先見性はスゴイ。00年代のスラッシュリバイバルが盛り上がってた時にデススラッシュに転向し、OSDMが盛り上がって来たときにはブラッケンドゴシックに転向。1歩先を行ってる感じです。あと何回変身を残しているのでしょうか。楽しみです。

 
 

2.Chapel of Disease

 

12年 1st「Summoning Black Gods」
15年 2nd「The Mysterious Ways of Repetitive Art」

今回紹介する3バンドの中ではかなり地味な存在。誰?と思う人もいると思う。元Infernäl Deathというブラックスラッシュのメンバーが結成したデスメタル。デビュー時はOSDMよりのサウンドでしたが15年2ndで音楽性の幅を広げる。イントロから壮大な物語が始まる予感をさせてくれたが、今にして思えばそのイントロはこのアルバムだけではなく次作への布石だったように思います。

 

18年3rd「.​.​.​And As We Have Seen The Storm, We Have Embraced The Eye」★オススメ

秒でポチッた。先行で公開された曲聴いて眠れなくなるし。もう大好き過ぎて毎日聴いていたしアナログメタルが18年度ベストを選んでいたらこのアルバムがNo1だったかもしれない。

このアルバムで「Tribulation化」したと言えば話が早いけど、内容はポスト・デス&ロール化したといえる。繊細でエモーショナルな旋律を勇猛なエピック感で融合するという一見無謀というか相反する表現を見事に一体化したアルバムです。実験要素もあるけれど奇抜性あるいは過剰な音響が前に出ることは無く、あくまで楽曲で真っ向勝負している姿勢が素晴らしい。音作りにしても最小限のディストーションサウンドでも最高にエクストリームだと感じたし、演奏が上手い事もわかりました。未知なる高揚感、領域がまだあることを証明してみせた作品です。ちなみに次に紹介するKetzerのメンバーもChapel Of Disease推しのようです。激オススメだ!

 
 

3.Ketzer

 

09年 1st「Satan’s Boundaries Unchained」
12年 2nd「Endzeit Metropolis」★オススメ

「Satan’s Boundaries Unchained」で一気に世界にその名を馳せた衝撃のデビュー作。ジャケ、容姿、もちろん曲もそうですが全てがカッコイイ。Destruction, Sodom, Kreator のキャッチー性からDesaster, Deströyer 666等のイーヴィル性を凝縮したブラッケンドスラッシュの名盤。続いて発表された2ndアルバム「Endzeit Metropolis」では泣きのメロディ、緩急ある曲展開など詩的になりジャケを眺めながら聴くと頭の中で色々なストーリーが展開されていく。僕はこのアルバムをオススメします。

 
 

16年 3rd「Starless」
19年 4th「Cloud Collider」★オススメ

ブラッケンドスラッシュの新星として人気を経て、更に大手レコード会社METAL BLADEへ移籍し順風満帆のストーリーを歩んでいたかのように思われていたバンドにいったい何が。と多くのファンは思ったに違いありません。
問題作「Starless」それまで培ったブラッケンドスラッシュな音楽性は影を潜め、より実験的なアルバムに仕上げた作品。比較対象として先に脱デスメタル化したTribulationがあげられますが、このアルバムはTribulationほどキャッチーでもゴシック調でもありません。当時は賛否両論というか否定的な意見の方が圧倒的に多かったです。無機質的な冷たさはあれど結構エモーショナルに感じられとても良いアルバムだと僕は思いますが。続いて4thアルバム「Cloud Collider」多少古典的なメタルサウンドに戻したとはいえ前作の実験性は生かされ、それまでのブラッケンドスラッシュとは一線を画する作品です。

Ketzer:ドイツ語で「異端」という意味です。
「Starless」発表後のインタービューを読むと、このバンド名の重要性は本人らが一番理解していて、現状のメタルシーン、自分たちの立場、ファンの求めるもの、賛否が分かれることも覚悟で、METAL BLADEもデモを聴いた上ですべての決定権をKetzerに委ねた形で作られたアルバムだったことがわかります。また、ベーシストのDavid Gruberはこうも言ってます。「私にとって優れたロックバンドはみな自分たちの限界を押し広げようとしている」

どの時代にも音楽性の変化させたバンドはいます。しかし、この言葉の重さは10年代のバンドにとって、言わば強制的にリバイバルの呪縛に囚われたバンド達にとって最大のテーマだったのではないかと。

次回へつづく