90年代初期デスから感化された若手が活発的に動き出した2010年前後、さざ波程度だったシーンが荒波になり、今や世界中にそのうねりが押し寄せる。リバイバルという波にもまれながらも上手く乗る者、抗う者、呑まれる者、振り返るとなかなかエキサイティングな10年だったなと思います。
さて、10年代を振り返りながらリバイバルを考察するというテーマで始まったこのコーナーも今回で終わりです。今までこのコーナーで記載していなかった私的ベストバンドを一気に紹介。このバンドのこの一枚!という形で行ってみましょう!
13.「New Age of Death Metal」
■ Horrendous
14年 2nd「Ecdysis」
今にして思えば「2014年」という年が若手デスメタルにとって一つのターニングポイントだったのでは?と考えます。リバイバルバンドと呼ばれたMorbus Chron, Miasmal, Corpsessed等、そしてこのHorrendousが次々に脱フォロワーバンド化し、各々がオリジナルティ溢れる作品をリリースした年でありました。その中でも特にHorrendousの2ndアルバム「Ecdysis」は衝撃的でした。全編を通して響く甘いメロディ。所謂メロデスと言ってもいいですが、多方向から抜粋された音楽性を掛け合わせ、練りに練られた曲構成は見事と言う他ありません。この方向チェンジによる実験性が功を奏したかは火を見るよりも明らかです。
もちろんセルアウトだとかの批判もありました。日本のアンダーグラウンドで人気がないのもわかります。が、僕はクサい言い方すれば逆にHorrendousの何物にも囚われない自由な姿勢こそ、この時代へのカウンターになっているのではないかと思います。
2010年代ベスト1のアルバムを選べと言われたら僕は迷いなくこの「Ecdysis」を選びます。ベスト1が10個くらいあるけど。
12年 1st「The Chills」
15年 3rd「Anareta」
18年 4th「Idol」
HM-2デスメタル、Dismemberフォロワーと呼ばれていましたが、現在はよりプログレ的であり、もちろんデスメタルの音楽性についても探求し続けているバンドであります。もうすぐニューアルバムが出るということなのでHorrendousがどう進化あるいは深化しているのか楽しみです。
■ Morbus Chron
11年 1st「Sleepers in the Rift」
14年 2nd「Sweven」
ついこの間、映画「ジョーカー」を見ました。10分で気が滅入りました。でも何度でも見たくなるような映画ですね。まぁ、映画の内容は置いといて、作中で主人公のジョーカーというかアーサーが言ったセリフが忘れられなくてですね、ネタバレにはならないだろうから思い出して書くと
「面白い事を思いついたんだ。君には理解できないだろうけど」
あぁ、Morbus Chronの事だ。そうだよ。理解できないよ。誰得なアルバムなんだよ。誰に向けたメッセージなんだ。自身か、メンバーか、ファンになのか、同胞に向けてか、デスメタルに対してか、メインストリームか、アンダーグラウンドにか、大手Century Mediaに移籍して何を訴えたかったのか。
Entombedフォロワータイプのデスメタルとしてデビュー。デモやEPそして1stアルバム「Sleepers in the Rift」でシーンを盛り上げたバンドでしたが、Century Mediaに移籍後アヴァンギャルドでサイケデリックな方向にチェンジ。2ndアルバム「Sweven」はキャッチーな要素はほとんどありません。本当にアヴァンギャルドなアルバムなので諸手を挙げてオススメはできないです。しかし、結果論だろうけどこのアルバムによってシーンに対し何かのスイッチが「カチッ」と入った気がする。バンドは翌2015年に解散。
が、なんとこの話には続きが。
中心人物Robert Andersson氏によるニューバンド、その名もSweven。相変わらず実験性の強い作品ですがスゴク良いかも。Tribulation, Chapel of Diseaseが好きな方にオススメ。
■ Miasmal
11年 1st「Miasmal」
14年 2nd「Cursed Redeemer」
16年 3rd「Tides of Omniscience」
ワタクシ、最初アメリカのバンドとか書いて思いっきり恥をかきました。すみません。スウェーデン出身のクラストデスメタルです。端的に言うと10年代リバイバル第一世代でムーヴメントの切っ掛けを作ったバンド。このMiasmalで10年代若手デスメタルに興味を持った人も多いかと思います。デモ、EP、1stアルバムまではEntombedの影響が濃いというかそれを売りにしてた部分がありますが、2ndアルバム「Cursed Redeemer」からEntombed的な部分をあっさりカット。クラスト的なサウンドも徐々にカット。恐らくですけど、この方向チェンジによって昔からのファンは離れたと思う。しかし、アルバムの良し悪しは別としてMiasmalがMiasmalとして無二の存在になったのも確か。
最近Miasmalの話を聞かなくなりましたが、活動はしているようです。そろそろ次のアルバムが聴きたいですね。今年は無理かもしれないけど期待しておきましょう!
■ Temple of Void
14年 1st「Of Terror and the Supernatural」
17年 2nd「Lords of Death」
ニューアメリカンゴシックTemple of Void。僕の超オススメバンドです。サウンドはよくフィンランドのHooded Menaceと比較されます。僕が感じた限りではその根源はParadise Lostだと思う。PLの「Shades of God」及び「Icon」を3倍激重にしたようなデスメタルです。耽美性あるデスドゥームとして注目された1st「Of Terror and the Supernatural」次にコマーシャル的にならずヘヴィネスを追求した「Lords of Death」共に甲乙つけがたいアルバムです。最近海外の有力紙Decibel MagazineやKerrang!でもプッシュされ始めたのでヤバいでっせ。
更にもうすぐ3rdアルバム「The World that Was」がリリースされます。僕は発売されるまで聴きませんが、音源は貼っときますのでよかったら聴いてみてください。
20年 3rd「The World that Was」ジャケからして名作の予感。
■ Zealotry
13年 1st「The Charnel Expanse」
16年 2nd「The Last Witness」
18年 3rd「At the Nexus of All Stillborn Worlds」
アメリカのアヴァンギャルド・テクニカルデスメタル。Demilich, Gorgutsの影響下にある音楽性でデビュー。1stアルバム「The Charnel Expanse」はドゥームデスとしても聴ける名作。変化があったのはやはり2ndアルバム「The Last Witness」から。トリッキーなリフによるアヴァンギャルド性は前作同様ですが、メロディや大胆なストリングス導入によって曲構成に抒情性を持たせることに成功。実験性あるプログレッシブデスとして大きな成長の跡が見られます。3rdアルバム「At the Nexus of All Stillborn Worlds」になると更に前衛的になる。もうなんというかフリージャズの即興演奏感すら漂う。かと思ってたら歌劇的クワイアの導入などもうわけがわからない。最高です。
最近どうなってるのかなと調べたらなんと、先日記載した期待の若手デスメタルCalcemiaとGarroted両バンドのギターが加入していてビックリ。今年(20年)はEPをリリースする予定だそうなのでスゴク楽しみ。
■ Venenum
11年 EP「Venenum」
17年 1st「Trance of Death」
Hellish Crossfireのメンバー在籍のドイツのデスメタル。ドイツらしいイーヴィルな音楽性と荘厳な雰囲気を併せ持つEP「Venenum」デビュー。僕もこの耽美的で血沸き肉躍る音楽性に魅了されたが、しばらく音沙汰がなく解散したかなと思ってた矢先、1stアルバム「Trance of Death」をリリース。「ワレ生きとったんかー」と驚いたが、もっと驚かせたのはそのアルバムの音楽性。勇猛な基幹部分は変わっていないけど邪悪的なものは後退し、よりプログレッシブなバンドへ変化。あくまでデスメタルですが、Chapel of DiseaseやTribulationが好きな方にもオススメします。
■ Sulphur Aeon
13年 1st「Swallowed by the Ocean’s Tide」
15年 2nd「Gateway to the Antisphere」
18年 3rd「The Scythe of Cosmic Chaos」
圧倒的。圧倒的ではないか!大事なことなのでアレ。
少し今までのバンドとは毛色が違いますね。90年代から続くデスメタルの正統的進化の道を歩む、正に王道と言えるデスメタル。そしてそのスケールのでかい音楽性はMobid Angel、Vader、Behemothなどと同系列で語れるほどの実力を持ち合わせています。特に2ndアルバム「Gateway to the Antisphere」で完全に門が開いた感がありますね。3rdアルバム「The Scythe of Cosmic Chaos」も同等に好き。気絶するかと思った。また、クトゥルフ神話を題材にしたジャケも圧倒的に強い。
ただ、聴くときは部屋の灯りを絶やさないように。
■ Suffering Hour
14年 EP「Foreseeing Exemptions to a Dismal Beyond」
17年 1st「In Passing Ascension」
19年 EP「Dwell」
17年作の1stアルバム「In Passing Ascension」で一躍有名になった脅威の新人。今のスタイルはブラッケンドデスメタルですけどデビューEP時はスラッシュメタルに近い音楽性でした。その時から個性があり、僕はVektorのような存在になると予想していましたが、1stアルバム「In Passing Ascension」で僕の予想は大きく外れてしまった。もちろん良い意味でさ。Vektorのようになると思った根拠に変幻自在なスタイルが挙げられるがその奇抜性がブラックメタルの方へ向いたらとんでもないことになった。19年作のEP「Dwell」では貫禄さえ感じるほどさ。このバンドはもっと大きくなるで。
■ 総評
10年代リバイバルあるいはムーヴメントと一括りで語られることが多くなりましたが、多くのバンドが10年代初期と後期では音楽性が大きく変わっています。進化あるいは深化、もしかしたら退化かもしれませんが、90年代初期デスメタルより30年、その根源が現行シーンへと受け継がれ激動している社会と共にデスメタルとしてどう「変化」しているかを楽しんだ10年でした。日本には諸行無常、盛者必衰なんて言葉がありますので、今後はどうなるかわかりませんけどデスメタルの変化は絶対に止まらない。僕はこれからもデスメタルの変化を追って行こうかと思っています。
14.「Blood Incantation」~10年代デスメタルの奇跡~
無限に広がる宇宙において地球のような惑星が生まれ、更に生命が誕生する確率は「10の4万乗分の1」だそうです。この確率がどれほどのものか例えると「プールの中に分解した時計を入れて水流だけで元通りに組み上がる」位の確率なんですって。よって学者の中には地球の存在は奇跡であり地球以外に知的生命体は存在しないという説を唱える人もいるとか。
…フフっ。その説は完全に否定されてしまいましたね。論破ですよ。
そう、この Blood Incantation によってだ!
15年EP「Interdimensional Extinction」
16年1st「Starspawn」
19年2nd「Hidden History of the Human Race」
ご存知の通り昨年(19年)Blood Incantationの2ndアルバム「Hidden History of the Human Race」が大ヒット。マニアから大手メディアまで、さらにOSDMどころか普段デスメタルを聴いているのかわからないような人たちからも絶賛の嵐。何故か? 作品がデスメタル的に素晴らしいことは間違いない。プログレ的視点からでも素晴らしい作品ではなかろうか。だけどここまで話題性が広がった理由は正直わからない。わからないけど、僕はこの10年間に起こったことの積み重ねがこのブレイクに繋がったと考えます。
若手OSDMの台頭から、ベテランの活躍、復活、ムーヴメントからリバイバル定着、Horrendous、Morbus Chron、Miasmal、Tribulation等のブレイクからの変革、Dark Descent Recordsなどのインディーレーベル、Century Media等の大手の役割、BANDCAMPの存在、サブスクリプションの普及、メインストリーム、アンダーグラウンドの在り方、社会認識の変化、カウンターカルチャーの逆転現象、SNSでの繋がり、そして10年代終わりという節目等、小さいなことから大きなことまで、それが偶然であれ必然であれ、あらゆる出来事が重なり流れ着いた先にBlood Incantationの存在があったのではないか。それこそ奇跡的な確率で。
ただ一つ。地球と生命が単に確率によって生まれたのか、生まれるべくして生まれたのかはわからないが、生命は偉大であり、尊くかけがえのないもの。
Blood Incantationの存在もまた然り。
おわりに
ということで、今回でこのコーナーは終りです。
当初は3回位で終わると思って気軽に始めましたが結局3か月かかってしましました。10年という年月はあっという間に過ぎ去っていきましたが、振り返るとその重みを実感しました。一応完結したけれど反省するところは沢山あります。まず、まとまりがなさすぎる。国別だったり、サブジャンル別だったり、ネタ的だったりと。思い切って年ごとの時系列順に気に入ったアルバムを紹介した方が分かりやすかったかもしれない。なので大幅な修正が必要かなと思っています。
で、このブログをどうするか。再開してみるとやっぱり寝不足になったり、焦ったり不安になったりと大変でした。せっかく再開したで、今後は気まぐれに記事を書こうかと思っています。
あと、ブログを書きながら思ったことを一つ。
僕もメタル人口を増やそうとメタルの入り口にはアレがいいとか、デスメタルに興味を持った方にはコレがいいとか書いたりしたけど、もうBlood IncantationやSpectral Voiceからメタルに入ってもいいじゃないかと。そういう時代が来たら面白いかなと思いました。
僕はHorrendous推しだけどな!
こんにちは!
長期更新お疲れさまでした。最近になってDark Descentやprofound Lore,20 Buck Spin,Blood Harvest等々の現行デスメタルの魅力にのめり込んだ自分はこのブログで貼られているバンドはとても参考にさせて貰っています。
Blood IncantationとかBURRN!誌の読者も当たり前に聴くようになって欲しいなと本当に思いますね。
不定期更新に戻られるとのことですが、Cemetery FilthやTemple of Voidの新作共々、次の更新も気長にお待ちしております。
2020/03/22 @ 03:20
nnsさんコメントありがとうございます。
私のブログを参考にしていただきありがとうございます。雑な内容でしたが復活した甲斐がありました。
最近シーンの流れが読めくなったり、機材や撮影ブースがなくなってしまったけどなんとか更新がんばりたいと思います。
今後ともよろしくお願いします。
2020/03/22 @ 23:47
やっぱりHorrendousなんですねw
自分は最近ようやくSulphur Aeonにもハマりまして、CoDとともにジャーマン最強!とか思ってますw
それはさておき、お疲れ様でした。
大変なんですね。。すみません、アホ面で、ただへー、ほー、言ってみてるだけなので、その辺りに想像が至らず。。。
更新がとまってからも、知らないバンドを聴いて、情報集めにググってるとこちらにくることが(というか、日本ではこちらしかない場合がw)多く、非常に頼りにさせていただいております。
ということで、舌の根も乾かないうちで申し訳ありませんが、、、負担になり過ぎない範囲でのまたの更新を楽しみにしておりますw
とりあえず、Swevenはチェックせねば。。。w
2020/03/30 @ 03:17
メニさんこんにちは。コメントありがとうございます。
いえいえ、お気遣いありがとうございます。こちらこそ閲覧していただいて感謝しております。
また、コメントいただくとモチベーションも上がりますのでゆっくりですけど更新していきたいと思います。
毎回「コレは激推しだ」としか言ってないけれど。
2020/03/31 @ 23:38