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『Ketzer / Starless』

「いったい何が起こった!?」
「Metal Blade Recordsにそそのかされたんだ!? 」
「結局、売れ線ねらいかよ!?」
「全部、オビ=ワンが悪いんや!」

昨年末、先行配信された「Starless」に世界中のメタルヘッドらは大混乱というか阿鼻叫喚。
アンダーグラウンドシーンで名を馳せたブラッケンド・デススラッシャーがロックバンドへと突然の方向転換。

因縁のライバルというわけではありませんが、Tribulationが昨年、大手 Century Media Records へと移籍し脱ブラックスラッシュ化に成功。プログレ的なブラッケンドロック/メタルとして各メディアから絶賛の評価をもらい見事にヒットしました。
そのTribulationの成功を見てMetal Blade Recordsが対抗馬としてKetzerに白羽の矢を立てたのでは?

本日の紹介レコードは Ketzer / Starless  このバンドの真価が問われる問題作登場!

 

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なんとも言えぬジャケだ。

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デカポスター付き。 ホワイト盤のほかにゴールド盤もあります。通常は黒盤です。

 

オルタナティヴ・ブラッケンドロックへ

ドイツ 元ブラッケンドスラッシュメタル 2015年 3rdアルバム。メンバーはGerrit – Vocals、Marius – Guitar、Chris – Guitar、David – Bass、Sören – Drumsの5人。
今作はIron Bonehead Productionsから大手Metal Blade Recordsへ移籍後の初作品。

初めにはっきりとさせておきましょう。もうスラッシュメタルではありません。先行配信された「Starless」と同じモダン路線であり、現代的なオルタナティブロックを意識させるサウンドです。
ですが「売れ線」を狙っているという感じはしませんでした。

むしろ逆です。コマーシャル的な曲はアップテンポな「Godface」一曲のみ。スピード感を押し殺し、過剰なディストーションを捨てたことによりKetzerが持っていた「冷暗な美旋律」を浮き上がらせ、全体的に不穏な雰囲気に包まれた「ネガティヴ」な作品だと感じました。

 

辺獄の残響

ネガティヴな感情に支配され、暗く地味な印象であることは否めませんが、早々に「駄作」と断定するのは待ってほしい。早々に「傑作だ!」とも言えませんが、ミュージシャンとしての作曲能力は確実に向上しております。元々スラッシュ時代から実験的要素が強いツインリードでしたが、本作はさらにその要素を深化させました。

主に2本のギターによる無機質な不協和音が主旋律を形成し、生気のない冷たさを漂わす。主観的に言えば「死」を連想させる。その死、あるいは辺獄を彷徨うかのような不安感を音で表現する力の向上は見事です。特にアルバム後半は「死」から「生」へと変調する曲展開がみられ、このアンサンブルが素晴らしい。ラストのセミアコによる美しいインストナンバー「Limbo」に至るまで、楽曲構成は細部まで練られており、彼らが単純な思いつきや、そそのかされて路線変更をした模倣者ではないと確信しました。

唯一無二への挑戦は芸術を志す者にとって自然の流れではないでしょうか。トップを目指すため棘の道を歩み出したKetzerの挑戦をアナログメタルは100%支持したいと思います! Great!!!

 

まずはアルバムで一番キャッチーなこの「Godface」を聴いてみてください。最高にカッコイイし、素晴らしくクサイ! いや、この場合エモイと言うべきか。この曲以外はかなり暗いアルバムですが、聴くたびに新しい発見があるアルバムでもあります。