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『Sulphur Aeon / Gateway To The Antisphere』

「フングルイ・ムグルウナフー・クトゥルフ・ル・リエー・ウガ=ナグル・フタグン」

思うに、いまなおこの地球上のどこかには、想像を絶した巨大な力と形を持つ太古の生き残りが潜伏しているはずである……測り知れぬ悠遠の昔に、大自然な霊的な力が凝り固まって、何らかの形状をそなえるにいたった。その後それが、潮のように押し寄せる人類の進出に遭って、姿を隠してからすでに久しく……わずかに詩と伝説のみが、かすかな記憶のうちにその姿を捉えて、神、怪物、その他もろもろの神話中のものの名で呼び……
出展 H・P・ラヴクラフト『ラヴクラフト全集 2:クトゥルフの呼び声』宇野利泰訳
創元推理文庫、10頁


ス、スゴイノキタ!
多分、世界中のデスメタルレビューアーたちが今年度のベストに選ぶ作品ではないでしょうか。
それでは、早速見てみましょう。 本日のレコードは Sulphur Aeon / Gateway To The Antisphere
あっ、見てしまったら最後ですよ。地獄の底より深い闇を見たらどうなるか。お覚悟を……

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Ván Records 特製スリーヴ仕様Death! ドキドキしながら封印を解くと……

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ヨグ=ソトース!!!  げ、芸術が爆発してる。カバーアートはOla Larsson ハァハァ

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サイドDはプリント面(無音)

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歌詞ブックレットとA2ポスター入り。Ván Recordsからオマケでステッカーが3枚付いてました。デフォルメされていてカワイイ。

クトゥルフ・デスメタルの決定版! ここに誕生

ジャーマンデスメタル 2015年 2ndアルバム。2010年結成、メンバーはM(incantations), T(ritualizations), D(tentacles)の3人。え~と、肩書きは見なかったことにしましょうか。触らぬ神に祟りなし。

1stアルバムより2年、第一印象は「大化けした!」という感じです。
前作はBehemothにメロデスを融合させたような楽曲で、世界的には高評価でしたがアナログ的にはメロデス部分が浮いているという感じでイマイチでした。しかし、今作は文句なしに素晴らしい出来。

まず、驚くのがスウェーデンのアートデザイナーOla Larssonによるクトゥルフ神話をモチーフにしたカバーアート。視覚的にも圧倒しています。このジャケに描かれている異形のモノは“ヨグ=ソトース”「外なる神」「門にして鍵」「旧支配者」と呼ばれているもので、“ヨグ=ソトース”の前ではクトゥルフすら取るに足らぬ存在などなど、今作は“ヨグ=ソトース”が主なテーマになっております。

全編邪悪な空気で満ちているが「宗教的サタニズム」とは異なる邪悪さ。曖昧な表現ですが「クトゥルフ的な邪悪さ」と言うのが、やはり一番しっくりきます。わかりやすく言えば宇宙触手的な気持ち悪さですね。(全然わかりません)

圧倒的な暴虐性、圧倒的な神秘性、圧倒的なソングライティング、技術力……全てが圧倒的。

邪悪にうねるトレモロリフと驚異的な怒号のドラミングを神秘的なストーリーで包み込む。破壊的でありながら美しく、壮大でありながら繊細な叙情詩的作品。前作と比べるとメロデス風なフレーズは激減しましたが、メロディは「量より質」という感じに濃密。作曲能力も格段に向上しているので、むしろ前作より感情を揺さぶる作品となっております。

Behemoth、Immolation、Morbid AngelファンはもちろんFunebrarum、Disma、Kryptsなどが好きなオールドスクール・デスメタルファンなら必聴の一枚と言えるでしょう。素晴らしい名盤の誕生Death! [Bandcampはこちらから]

計り知れぬ混沌と人知及ばぬ神秘的秩序のコントラスト。深淵の闇に蠢く異形の物への畏敬の念、神の救いを知らぬ世界に美しさと感動を覚えるのは、既に「深きものども」へと変わりつつある故か。